オ・ヨンジュさん 駐福岡韓国総領事館・経済担当領事

■プロフィール
1964年3月 大韓民国 馬山市生まれ
1988年 大韓民国外務部入部
1989−92年 外務部国際機構課勤務
1993−95年 米国カリフォルニア州立大経営学専攻
1995−97年 外務部環境課勤務
1998−00年 国際連合大韓民国代表部一等書記官(経済担当)
2000年10月 駐福岡大韓民国総領事館 領事(経済担当) 
■家族構成
既婚、息子さん(10歳)が一人

 本誌編集長・神崎公一郎による、家族と暮らし、そして暮らしを支える住まいに関するレポート。第2回はゲストに、駐福岡韓国総領事館・経済担当領事のさんを招き、本国を離れて国務に励む女性の家族観、暮らし観などについて聞きました。

神崎 メア領事は外交官として東京、福岡での生活も長いわけですが、東京に比べた福岡の印象はいかがでしたか。  

オ・ヨンジュ まず東京にあるものは、だいたい福岡にもありますね。しかも福岡はアクセスが良い。

神崎
 昨年10月に福岡に着任され、前任地はニューヨークで日本勤務は初めてだそうですね。福岡の街の印象はいかがですか。

オ・ヨンジュ 街並みがきれいですね。古い物と新しい物が合わさっていて、自然とも共生しているという感じがします。住みやすいし、プレッシャーがないですよ。また、公共施設が立派でショッピングセンターにも休息空間の役割を持たせている。福岡をひとことで言えば「調和の都市」だと思います。  

神崎 福岡は都市のサイズがコンパクトなんですよね。

オ・ヨンジュ そうですね、適正規模の都市というか。私の育った韓国の大邱もそういう都市なんですよ。ソウルに比べたら、大き過ぎず小さ過ぎずで、本当に住みやすいところです。人間が住むために適当な都市のサイズがあるのではないかと思うのですが、福岡はまさにそうした都市なのでしょう。だから、忙しさに追われないで、気持ちよく仕事ができるのだと思います。

神崎 ご結婚は?

オ・ヨンジュ しています。子どもが1人いますので、福岡へはその子と私の母親の3人で来ています。主人も公務員ですが、私がずっと外国なので、4年ほど別々に暮らしているんです。  

神崎 大丈夫ですか?(笑い)   

オ・ヨンジュ アハハハ、問題ないですよ。結婚には色々な形があると思いますので。  

神崎 ご主人は今、どちらに?

オ・ヨンジュ ソウル市役所の課長をしています。ずっとソウルにいる人ですから、外交官の相手としては相応しくないかも知れませんけど、しようがないですよね(笑い)。  

神崎 お子さんは?

オ・ヨンジュ 男の子で、10歳になります。今、インターナショナルスクールに通っています。面倒は母にみてもらってますね。私の場合は母親からずっと助けてもらっていますが、働く女性が結婚して子どもを育てるのは、とても難しいものですね。

神崎 前任地のニューヨークだとソウルは遠いですが、福岡だと比較的行き来しやすいでしょう。

オ・ヨンジュ そうですね。ニューヨークにいたときは、主人も公務員ですから、1年で2週間くらいしか家族一緒になりませんでした。私は仕事があるからいいのですが、子どもの方は寂しいですよね。父親に会いたい気持ちがあるでしょうし、一人っ子なので、以前はずっとそのことが気になっていたのですが、今は子どもも母親はいつも忙しく、父親は韓国にいる、という状況に慣れてきたみたいです。  

神崎 今、どのくらいのペースでソウルに帰省を?

オ・ヨンジュ 私の場合は帰らないですね。領事としての内規があって、政府から許可をもらって帰国することになるのですが、これはちょっと大変なんですよ。それに、私の考えは、外国に赴任したのならば、その機会を楽しもうじゃないかと。だからできるだけ本国には帰りません。ニューヨーク勤務の時に一度だけ帰りましたけど。

神崎 3年間でたった1回?

オ・ヨンジュ はい。弟の結婚式に出席するために。ニューヨークでしたいことがたくさんありましたから、韓国へ帰る時間がもったいなかったんですよ。

神崎 その時もお母さんとお子さんと3人でニューヨークへ?

オ・ヨンジュ そうです。ニューヨークの場合は仕事がたくさんあるので毎日会議なんですよ。家に早く帰るなんてまず無理でしたから、子育ては母親に任せきりでした。でも、今は時間があるので、週末には子どもと一緒にいます。そういう意味で福岡はいいなぁと思いますね。  

神崎 日本の家族について何か感じることはありますか。

オ・ヨンジュ 韓国と似ていると思いましたね。家族観とか、子どもに対する愛情の形とか、教育熱とか。家庭での男性と女性の地位や関係も似ています。でも、ひとつ違うなと思ったのが、若者のことです。日本の多くの若者は、大学生になったら家を出てひとり暮らしを始めるでしょう。韓国はそうではないんです。結婚するまでずっと両親と一緒に暮らしています。そういう意味では、日本の方が子どもが独立できる環境なのかもしれませんが、韓国は本当に親子関係が親密な国なんですね。何でも親子で話すし、子どもも親の期待に添うようにがんばろうとします。それ以外は日本と韓国の家族というのは似ていますね。 神崎さんはいくつくらいまでお仕事をなさるおつもりですか?  私の場合は60歳までですよ(笑い)。

神崎 もっと早くリタイヤして家族中心の生活をしたいとは思いませんか?

メア 家族は大事なものですが、時間を共にするのが重要だとは思っていません。接する時間が短くても、お互いを理解し、協力し合うことだと思います。でも、私のようなケースは特別だと思います。主人は韓国で妻は外国なんてあまりないんですよ。私たちはずっと別々に暮らしています。はじめはそのことが心配だったのですが、一緒に住んでもつらいことも多いだろうし、それよりも、わずかでも会うときは楽しく過ごす。それがいいんじゃないかと思いますね。今の選択が間違いなかったと思いますし、私には合う生活だし、自分のために使う時間が増えます。主人もひとりで住んで時間があるので、今博士課程の勉強をしているんですよ。私の方も色々と勉強できるんですよ。  

神崎 ところで、お住まいはマンションだそうですが、韓国と日本では住み心地に違いがありますか。

オ・ヨンジュ 韓国は高層ビルの大団地形式で、日本は低層の単独ビル形式が主流である点と、同じ値段だったら、韓国の家の方が大きいみたいです。それに韓国の場合はマンションが1カ所に密集しているので、その周辺にさまざまな施設が備わっています。学校、病院、公園や店など、暮らしに必要だったり、潤いを与えたりするものがマンションの中にあって便利です。私見として日本のマンションより単独住宅に好感を持っています。各々特色のある庭があり、静かで安定した雰囲気が感じられます。家の間取りに関連して、韓国の家はこの頃風呂場とベランダ等の空間やリビングルームに重要性をおいています。何故なら玄関を開けて入ればすぐにリビングに続いている配置が多いので、リビングが広く明るい場合、家全体の雰囲気が違ってきます。  

神崎 日本のマンションに住んでみて不便なことはありますか。

オ・ヨンジュ 福岡の場合は冬も比較的寒くはないのでしょうが、韓国人からすると寒いんですよ。どうしてかな、と思っていたら、韓国のマンションにはすべて「オンドル」が付いているんですよ。ここにはそれがありませんので、冬はすごしにくいですね。それから韓国人からすると日本のマンションは静かすぎるところがあります。韓国人は日本人からするとうるさいと思うんですよ。家で大きな声を出して走り回ったりして。でも私が今住んでいるマンションは、静かすぎて人が住んでいないような感じがするんです(笑い)。だから私の子どもに「気を付けて、小さい声で話して、廊下を走らないで」と注意して出掛けています。日本の場合は相手を気遣う気持ちが強いのでそうなるのでしょうが、韓国の場合は全部うるさいので気にならないのです。  

神崎 もし家族4人で住むとしたら、住まいの果たす役割、重要性とは何だとと思いますか?

オ・ヨンジュ 家が子どもの生活にも影響を与えるものだと思いますから、静かで個人個人の独立性が守られるような家がいいと思います。家が小さいと、それが本当に難しくなります。ドアを開けると全部見えてしまって、子どもも独立したスペースで何かしたいという時もあるし、小さいとそれができない部分もありますね。ただ、韓国人の方が日本人より家に対する気持ちが強いと思いますね。韓国人は家を賃借するのではなく、家を買って安定することを重要視しています。韓国では付き合っている女性が男性に聞くのは、「家を持っているの?」ということです。持ってなかったら「いつできるの?」と。家の所有を経済的な安定と同一視する社会的雰囲気がありますね。

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