本誌編集長・神崎公一郎による、家族と暮らし、そして生活のステージである住まいに関するリポート。5回目は、住宅分野における規制緩和を中心に、設備・仕様なども含めて進化≠オている住まいづくり、そしてそこに住む家族の生活について、ハウスメーカーや設備業者のみなさんに話し合っていただきました。
規制緩和と住宅の変化
神崎公一郎(本誌編集長)
2000年度に「住宅品質確保促進法」(品確法)が導入され、これに伴って建築基準法が改正されました。住宅の規制が緩和されたわけですが、建築家の水野さんは、設計するなかで規制緩和を感じることはありますか。
水野 宏(建築家)
具体的にはロフトや地下、採光の緩和がありました。ロフトは実際に造られていたものが、法的に認められたわけですが、空間造りのバリエーションが広がりますね。地下に関しては、コスト面の問題もあって、福岡ではまだリアリティがないかもしれません。しかし、東京のような地価が高い都市圏では活用例も出てきているし、内容としては魅力的。あと、品確法については、現場からは、従来の大工の技術が評価されていないという批判の声を聞きます。

石竹勇一(ミサワホーム九州)
確かに地元の工務店から「厳しい」という声は聞きますね。これまで曖昧だった尺度がハッキリしたわけですから、メーカーとしては追い風になっていますよ。
神崎
ミサワホームの「蔵のある家」は、規制緩和によって実現したものと考えていいのでしょうか。
石竹
「蔵」に関しては、以前から当社で自治体に話し、エリアごとに許可をもらったりしていました。蔵といっても独立した建物ではなく、1階と2階の中間層に付けます。階段を使って上り、蔵が踊り場から使用できる。収納として、また部屋としての要素もあるスペースです。改正建築基準法では、かなり認めてもらえました。都市部では限りある容積の中で、収納をいかにカバーできるか、カバーできた空間が実生活で使えるかは重要なポイントです。今後の住宅の在り方を含め、評価をいただけたと感じます。
佐伯幹雄(三井ホーム)
小屋裏(いわゆる屋根裏など)に物置などを造る場合に認められる面積が、直下階床面積の8分の1から2分の1に拡大されました。今まで死んでいたスペースを使えるわけですから、その空間の利用が一番の魅力。ただ、広がった分を実際に使えるかどうかは、今からの課題でしょう。例えば小屋裏は、夏場は、簡単に60〜70度になります。そんな所に家具は置けませんね。三井ホームは、構造体でもある高断熱屋根パネルを開発し、それで小屋裏の温度変化を抑え、生きた空間に変えています。
神崎
セキスイハイムは早くから太陽光発電に力を入れていますね。
田島竹志(福岡セキスイハイム)
当社は環境をテーマに、安心・快適・健康が実現する住宅に取り組んて、クリーンエネルギーの太陽光発電もその一つ。毎日の生活が環境に貢献しているとお客さまに意識してもらえますし、余った電力を売ることで経済的メリットもあります。最近は傾斜10度の陸屋根に設置するのが主流で、発電力に5%程度の差は出ますが、東西南北どこでも自由に付けらるんですよ。
神崎
規制緩和の影響は?
田島
品確法や建築基準法の改正とは直接はリンクしませんが、自家発電に対しては行政から補助金が出ますし、電化住宅の技術や設備も進歩しています。環境を重視した新しい家づくりの在り方としては、社会的な認識も含めて追い風を受けているということはいえるかと思います。
神崎
三菱電機はこうした新しい住宅づくりを設備面から支えているわけですね。
吉村敏男(三菱電機中津川製作所)
当社にはホームエレベーターなどさまざまな住宅関連設備の部門がありますが、中津川製作所では空調部門を取り扱っています。品確法の大きな目的の一つに、「省エネ省資源」があります。より快適な室内環境を、どれだけ少ない負荷で実現させるか。高気密高断熱の流れの中で、通気換気の必要性が明確に出てきました。この数年で、空調や換気に対するハウスメーカーや工務店の考えは著しく変わっています。皆さんが考えるシステムに応えられる設備をどう実現するかが、メーカーの使命だと思っています。
佐伯
技術革新でいうと、高気密高断熱の材料は、どんどん良いものができています。その材料で、小屋裏を収納(物置)にするだけではなく、生活空間の一部としてロフトが有効に使えるようになり、規制が緩和されてその面積も4倍増しました。箱として高気密高断熱が実現したことで、自由な内装空間を造ることができるという感触は持っていますね。
水野
建築基準法は、戦後の貧しい生活を底上げするために最低限のレベルを示した法律です。でも今、生活のレベルも状況も変わっていて、採光の規制なんて今はかえって迷惑な話。技術の進歩で基準が見直されることはあっても、生活が変わったから見直すというケースは少ない。生活しやすくなるために、基準法はどうあるべきかという検討の余地はあるとも思っています。
大空間思考と現代家族
神崎
三井ホームの3階建ては、技術というより、変わってきた家庭生活への提案だと受け止めています。その根本にある考えは…?
佐伯
確かに世間の家への考え方は変わっています。「住めればいい」「買い替えればいい」から、家族や生活の変化に沿ってリフォームや増築をするという考え方へ。今は自分、次に子ども、その後は孫と受け継がれ、住む人が使いやすいように内部空間を替えていけるのも、今後の住宅のあり方の一つでしょう。
神崎
高齢者との同居率は全国平均で4割くらい。少子高齢化の流れで、25年後は2%程度になるという予想もあります。しかし、東京、大阪から、親の介護のためや、望んで田舎へ帰るケースもあるでしょう。水野さん、現実はどうですか。
水野
同居とみるか分かりませんが、自分で土地を買えないので、親の土地に離れを建てるケースもあります。限られた敷地をうまく利用しなければならないわけですから、3階建て住宅は必然の流れでしょうし、バリアフリーもセットになってくるでしょう。
佐伯
あとね、家長である親父の権威につながる家造りができるといいな、と。具体的には、親の考え方が子どもに伝わる家。最近、帰ってきた子どもが必ずリビングを通る間取りの家を望む傾向がありますね。そういう要望を的確に設計に生かし提案でき、それが必要ではなくなる時期にも対応できる家。親が年老いて子に家を引き渡した後も、存在感は出せる家…。使う時々の考え方が家に反映できるような、キャパシティのある家が理想です。
石竹
今、ミサワホームも間仕切りを造らない大空間を基本に造っています。ターゲットとしている20代後半から40代は、良いものを見て育っているから、デザインセンスが高いし、内装もうまい。カチッと造るより、大空間をそれぞれのセンスで変えていけばいいと思っているんです。そうすれば何世代にも渡って住んでいけるわけですから。
吉村
大空間となると、特に吹き抜けは、正直なところ、空調の効率は悪いんです。採光(窓)を大きくとると冷房の負荷は高くなるし、相反する部分があるのは否めません。でも、居住者のニーズがあるわけですから、どう対応していくかは電機メーカーの仕事ですね。
神崎
難しいところですね。
田島
家を建てるとき、どうしてもコストが基準になりませんか。長く住める耐久性のある家となると、建築後にかかる費用も抑えなければならなくなる。家を建て維持するには、建築にかかるコスト、ランニングコスト、メンテナンスコストが必要。セキスイハイムでは、建材選びなどからメンテナンスコストを抑える工夫をしています。

水野
今の家族にとってリビングの考え方は一つのテーマだと思います。昔の家はあけっ広げで、プライバシーはなかったけど、親密な家族でいられた。プライバシーを重視して個室を与えた結果、コミュニケーションが失われたでしょう。魅力的な空間に家族は集まるのだから、求心力のあるリビングをどうつくっていくかも考えたいですね。
されど収納
石竹
もう1点、私が今の住宅で重要だと考えているのは収納です。今、モノがあふれているじゃないですか。モノがない生活をしてきた日本人は、収納を考えずに新しいモノだけを生活を取り込んでしまった。収納をいかにとれるかが、いかに楽しくきれいに暮らせるかにつながると思うんですが…。
神崎
住宅アンケートをとると常にテーマに上がる項目ですね。
石竹
通常、収納は建坪の約10%が一般的です。40坪なら、1階の和室に1間、2階に3室あれば1間ずつ、階段下に納戸を造って、4〜5坪というところ。でも、それでは収まらない。それが当社の蔵だと2階の床面積の2分の1はとれる、つまり25%になります。いろんな世代が同居するとして、収納が十分あれば、おばあちゃんの若いころのアルバムや晴れ着までとっておける。晴れ着をきっかけに、子や孫と話ができるでしょ。でも、収納スペースをきちんと確保しておかないと、実際は家を建てるときに捨てざるをえないんですよね。
水野
家具の研究開発に携わっているんですが、「どんな家具が欲しいか」というアンケートをとると、収納がテーマになりますね。今、婚礼家具が売れていないでしょう。みな箱モノは置きたくないと考えているけれど、マンションやアパートに付いている収納では足りていない。家の中で収納と住まいのバランスをどうとるかは、設計の大きなテーマになりますね。
石竹
家を建てるとき、奥様方は必ず「きれいにしたい」と収納のことを言われます。しかし実際には、どれだけのモノがあるか、どれだけスペースが必要かは把握されていないことが多いですね。「とにかく収納はいっぱい」と言われる。水野先生のような建築家が手掛けられる場合は時間をかけて打ち合わせして把握していけるのでしょうが、量産が必要なハウスメーカーは難しいです、実際。ですから、「蔵」という広い収納スペースを提案することで、お客さまには安心していただけます。
水野
話は少し違いますが、私はもう1度、日本人の本音の生活を洗い直すことが必要じゃないかと感じています。生活様式は欧米化しちゃったけど、日本人って靴を脱いで家に上がるスタイルは当分捨てられない。食後は畳の上に寝ころびたい、イスの上でもあぐらをかく日本人は多いんです。
石竹
リビングにソファを置いても、結局こたつを真ん中において、ソファは背もたれになってたりしますよね。
水野
洋風化しても捨てきれない生活習慣は確かにある。これをどう生かし、共存するかを追求していく時期に入っているんじゃないでしょうか 。
テクノロジーと生活
石竹
地球環境は世界の大きなテーマです。ミサワホームでは木を母体に構造体を造りますが、余った木に化学樹脂を加えた素材「M―wood」などを造り、内装材などに使っています。「造る」だけではなく、リサイクルを考えた提案です。住宅周辺で微気候を作れないかという動きもあります。昔の田舎の家って、表庭は陽が当たって暑くても、裏庭の樹木から涼しい風がきたりしていたでしょう。そのメカニズムを取り入れようというもので、外構やエクステリアも含め、建物の中に空気の流れを作ることで、夏は涼しく冬は暖かい家を目指しています。
田島
家族は成長します。10年単位で住宅の将来を考え、設計・設備を実践していきたいですね。また、環境はやはりキーワードです。ソーラーシステムの推進と同時に、大気の熱をエネルギーに変えるヒートポンプの給湯器などにも力を入れていきます。
神崎
IHはどうですか?
田島
IH電気温水器とソーラーシステムの併用やオール電化住宅は、セキスイハイムでは当たり前の感覚でご提案しています。
水野
オール電化住宅には一つ穴がありますね。床暖房が組み込まれていないでしょう。調べてみたら、蓄熱式というのはありますが、電気事業法の関係で、床暖房の給湯に料金の安い深夜電力を使ってはいけないことになっているんですよ。そのあたりが、オール電化の普及に必要な緩和じゃないでしょうか。床暖房は特に吹き抜けに有効なので、戸建てに活用したい。今の状況では、深夜電力で作った温水による床暖房が一番だと思うんだけど。温水管の性能が上がっているんだし、もっと改良を進めてほしいな。
吉村
そうですね。あくま私見ですが、オール電化で問題なのはやはり暖房設備でしょう。冷房はエアコンで十分ですが、冬はエアコンの暖房では足りずにファンヒーターを使う家庭は多い。今、中津川製作所でも温水を使う“ヒートポンプ床暖房”や、コストを抑えた電気暖房にも取り組んでいますよ。

佐伯
最近、CO2を冷媒にした電気温水器がありますね。4人家族で、5〜6年分のガス代差額で家族そろって海外旅行に行けるくらい。言いかえればそれだけのコストダウンができるそうです。
田島
それは補助金も出ますよ。NEDO(新エネルギー産業機構)のモデル事業です。IH電池とヒートポンプの組み合わせで3分の1は補助金が出ます。ただ、ユーザーが3年間家計簿を付ける義務が発生しますけど。
家造りは共同作業
石竹
収納の話でもそうなんですが、住み手が自分たちの生活をしっかり分かっていると、細かな打ち合わせができます。分かっていないと突っ込んだ話ができない。メーカーに頼む方は、「時間をかけて家を建てる」というより、「お任せでお願い」に近い感覚の人が多くて…。
神崎
住み手の意向をどれだけすくっていけるかがポイントということですか。コストパフォーマンスの問題も出てくるでしょうし。
田島
ハウスメーカーは、最初に営業マンが施主と打ち合わせして間取りを考えるやり方でしょう。営業マンの意識が高くないと、施主も気付かないまま収納を見落として、設計士のチェック段階で「これでいいの?」となったり。家事室にしても、奥さんが専業主婦か共働きか、フルタイムかパートかでも事情は違います。セキスイハイムでは研修などを行って、「生活の提案」を重視しているんです。
神崎
住み手は、どうしても今の自分を中心に考えますよね。私の体験ですが、親が住む実家の改築のとき、最初の設計ではトイレが幅90aしかなかった。車いすを使うと言ったら、広くなりました。「言わないと、やらない」「考えないと気付かない」。家造りは施主と工務店の共同作業だと実感しました。設計者の勧めたい住宅と、施主の要望とのせめぎあいもあるでしょうね。
水野
どんな家が欲しいか、把握している方は意外と少ないですよ。「このリビングセットを置きたい」とか表面的なイメージが先行しがち。こちらの提案でこだわりもどんどん変わるし。だから、建築家としては十分コミュニケーションして、本当に欲するところを理解し、提案していかないとと思っています。
佐伯
そうですね。あまり広くない土地に家を建てたお客様の話ですが、「親に日当たりも良い、一番良い場所をと思うが、1階は日当たりが良くない」と悩んでいらっしゃるわけです。そこで3階をご両親の居室に提案しました。ホームエレベーターを付ければ移動に問題はありませんし、3階は日当たりも風通りも最高。ご両親は気がねせずにお友達を呼ぶこともできる。縦動線は一種のバリアフリー。「高齢者は段差もない1階で」という概念を崩したい。そういう提案は大切ですし、施主に受け入れられ始めています。
神崎
ほかに、生活の利便性を向上する設備やツールはありますか?
吉村
生活の変化に伴って、いろいろな商品が出ていますよ。共働きの家庭ではほとんど夜に洗濯しますが、浴室を衣類乾燥室として使う設備。最初は集合住宅用でしたが、最近は戸建てにも利用されるようになりました。冬場のサニタリー用の暖房セットなど、部屋ごとの温度差を圧縮する冷暖房システムとか。
神崎
新しい設備や機材はどんどん出てきます。それらを活用して、いかにそれぞれの家庭にあった提案をできるかということですね。
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